やわらかくて気持ちいいから仕方ない
「もう。またやってる」
「え」
「もしかして無意識だったの」
「何のことすか」
「それ」
事後に裸のまま、後ろ抱きの格好で横たわったベッドの中、視線の先では沢北くんの長い指がわたしの二の腕を摘まんでいる。正確には揉まれているという感じで、餅でも捏ねるかのようにずっとふにふにとしていた。
「あー、すいません。めちゃくちゃ無意識でした」
「いつもだよ。今は腕だけどお腹や太ももの時もあるし」
「柔らかくて気持ちいーんすよ」
続けて説明されたのは、普段バスケでガタイのいい大男との接触が多いこと。ぶつかると固いこと。ずっしりした重さに弾かれること。その反動で柔らかい感触を自然と求めていること。
上手い具合に結論付けられて、それじゃ仕方ないかと思わず納得してしまう。けれど、触れられる場所は普段から自分で気にしている部分でもあるので、とても微妙な気持ちだった。
「痩せなきゃなって思ってるのに」
ふと零せば「えええええ」と頭上で大きな声が響いて、くるりと反転させられたわたしは沢北くんと向き合うかたちになる。
「何言ってんすか。痩せる必要なんて全然無いっすよ」
「ある。すっきりした二の腕目指してるんだから」
「そんなのつまんないっすよ」
「二の腕に面白さ求めてないもん」
「そうじゃなくって」
はああ……と絵に描いたように深い溜め息を零し「何で分からないかなあ」と心底不思議そうに沢北くんはぼやく。
「どこ触っても柔らかいって女のひとの特権じゃないすか」
「特権……なのかなあ」
「そうっすよ。一回ゴツイ男にガンガンぶつかってみたら分かるっすよ」
「そんな機会無いもん」
「まあ、させないっすけど」
「自分で言ったのに」
そんな沢北くんらしさが可笑しくて吹き出すと、ふと目の前に広がる滑らかな肌に触れる。しっかりした肩から繋がる胸筋と、その下へ続く引き締まった腹筋は、どちらも自分の身体には無い固さと弾力だ。
「柔らかくなくたってこんなに気持ちいいのに」
「わっ。びっくりした」
「さっきのお返し」
ぺたぺたと感触を楽しみつつ、たまにそっと押してみる。けれど指は沈まずにしっかりと押し返されて、とことん鍛えられた身体なのだと改めてわたしに実感させた。
「くすぐったいんすけど」
「わたしだってそうだったもん」
沢北くんの抗議は気にせず更にあちこちに触れて行けば、負けじと二の腕が捉われる。そしてまたふにふにとしながら
「えっとさん」
「ん?」
「オレたち今服着てないって分かってますか」
その言葉にはっとしても、もう遅い。二の腕を楽しんでいた手のひらはそのままスライドされて、更に柔らかな膨らみを包み込む。思わず小さな声を上げればそれが合図のように、正反対のふたつの身体は再びひとつに溶けて行った。