LOVER SOUL
「出来ました」
キッチンに立った沢北くんが得意げな顔をわたしに向ける。
渡米後のことを考えて自炊出来るようになったと話す彼は、実際に向こうでも自分で食事を作ることが間々あるらしい。だからなのか手つきは慣れていて、取り分けてくれたパスタをあっという間にわたしは食べ終えてしまった。
「ごちそうさま。今日のも美味しかった」
「良かったっす。最近覚えたんすよ」
にっこり笑う沢北くんもとっくに完食している。両手で頬杖をついた格好で見つめられながら食べるのは、中々に落ち着かなかった。
洗い物を済ませてTVの前に移動する。借りて来た映画をセットすると、リモコンを手に隣に座った。さほど大きなソファーでも無いので、ぴたりと触れた腕が熱い。画面に集中出来ないかと思ったけれど、さすがにその年の話題を席巻した超大作だけあって、そんな心配は無用なまま気付けば3時間超が経過していた。
沈んで行く船と悲劇的な内容に、画面が暗くなっても涙が止まらない。ぐすぐすしながらティッシュに手を伸ばすと、同じくらい目を赤くした沢北くんに背後からぎゅっと抱き締められた。
「あったかい……」
小さく呟かれたひと言に、同じ気持ちでわたしも腕を伸ばす。相手の温もりを実感出来る幸せを、痛いくらい感じていた。
ずっとそのままでいたかったけれど、時計の短針はとっくに十を通過している。まだお風呂にも入っていなかったことを思い出し、名残惜しいまま沢北くんに入浴を促した。わたしの方が時間が掛かるので、先に入って貰った方が都合が良いのだ。
早々に出て来た沢北くんは、見慣れたスウェットの上下に着替えている。パジャマ代わりのそれはうちに置かれているものだ。
「お先でした。まだお湯温かいっすよ」
「うん。じゃあわたしも入って来るね」
また少し大きくなったのか、常備してあるスウェットはさっきまで着ていたトレーナーよりはっきりと身体の線を拾う。しっかりと鍛えられた肩や背中を見せられて、わたしの鼓動は表に聴こえてきそうなくらいに早鐘を打っていた。
髪と身体を丁寧に洗い、バスタブに浸かる。匂いが気に入って買った入浴剤は白濁した青緑色で、それがさっき観た映画の海と沈んで行く恋人の男性を思い出させた。
途端に早く沢北くんの顔が見たくなり、湯から上がると手早く身体を拭いて髪を乾かす。パジャマ代わりの部屋着を纏うと、急いた気持ちでリビングのドアを開けた。
「あれ、随分早くないすか」
「うん。離れてたくなくて」
衝動的に、ソファーに座っていた沢北くんの頭を正面から包むように両腕で抱く。いきなりの行動に驚いているのは顔が見えなくても明らかで、わたしの胸に顔を埋める格好になっていた沢北くんは
「さんそれヤバいっす」
と言うなり立ち上がり、真っ赤な顔でわたしを見下ろす。そして珍しく強引に手を引くと、リビングの電気を消して寝室へ繋がる扉を開けた。
普段ひとりで眠るベッドが、ふたり分の重さに深く沈む。背中に感じる柔らかさと覆い被さる大きな身体に、映画で覚えた不安や寂しさはあっという間に溶かされて行った。