こどものような おとなのような


「沢北くんて寝転がってるときと起きてるときで全然イメージ違うよね」
「寝転がってるときって、横になってるときってことすか」
「そう。身長差を感じないときは歳より幼く見えるのに、起き上がると大きくてびっくりする」
「いまさら大きさに驚かないでくださいよ」

 オレの返しに「ほんとだね」と可笑しそうに笑うさんを可愛いなーと眺めつつ、さっきの言葉にはひとつだけ流せない箇所があった。

「歳より幼く見えますか。オレ」
「どっちかって言えば童顔じゃない?」
「こっちではアジア人全般が若く見えるらしいんでともかくとして、日本にいるときは言われたことないすよ」
「そっか。じゃあわたしにだけそう見えるのかも」

 ふふ、といたずらっぽく笑うさんは自分こそ大きなギャップを抱えていることに気づいていない。
 普段は年上らしく落ち着いてしっかりしているのに、ふたりきりの寝室では途方に暮れた子どもみたいで。なのにからだは大人の女性でどこもかしこもやわらかくて「胸あんまりなくて」なんて言っておきながら、思いのほかずっと豊かで。
 高校生の頃に好きになって付き合い始めて、かなりの年月を共に過ごしているのにいまだにオレをどきどきさせる。自分でも呆れるくらいさんしか目に入らないし、さんのいない人生なんてバスケのないそれと同じくらい考えられなかった。

「輪郭は少しシャープになったけど、まるい目も綺麗な肌も昔から変わらないから。わたしだけどんどん歳取ってる気がしてやだなあ」
「なに言ってんすか。オレだってしっかり一緒に歳取ってますよ。常に一年遅れですけど」

 こればかりはどうにもならない。昔はそれが悔しくてさんと同い年の先輩に「修学旅行とか一緒に行ったんすよね。ずるいっすよ」なんて絡んでうるさがられたりもしたものの、そのくらいオレより一年早くさんを知っているというのが羨ましくて仕方なかったのだ。
 けれど今となっては笑い話で、知らなかった一年の何倍もの時間オレは彼女を知っている。それに、大人になってしまえばひとつの歳の差なんて誤差みたいなものだ。いつしかすっかり気にならなくなって、オレより生まれ月の遅いさんが誕生日を迎えるまでの間、わずかでも同い年になるのをささやかな楽しみとすら感じられるようになっていた。
 そんな話をすると、大きな目をやわらかく細めたさんがくすぐったそうに口をひらく。

「そうだね。ひとつの差なんてあってないようなものだし、そもそも沢北くん考え方は大人だもんね」
「それも言われたことないっすよ」
「十代で自分のやりたいことをしっかり見据えて動けるんだもん。じゅうぶん大人でしょう」
「さっき幼く見えるって言ったじゃないすか」
「それは見た目の話。中身は今言った通り大人だと思ってるし、起き上がると全然幼くなくなるからギャップが面白いって言いたかったんだよ」
「どんな状態でもちゃんと大人だと思ってほしいんすけど」

 言いながらのそりと上半身だけ起こし、隣りでこちらを向いた格好で横になっているさんににじり寄る。そのまま顔の両脇に手のひらをついて見下ろすと、この体勢でもしっかりと体格差を感じたのか、どきりとしたように二、三度まばたきをしたのち「……ずるい」とちいさなつぶやきがオレの耳に届いた。

「何がずるいんすか」
「ちょっとでもからだを起こしたらあっという間に違うひとみたいになるから」
「オレはいつでもオレっすよ」

 照れ隠しからそっぽを向かれる前に、肘を曲げて囲い込む。
 ぐっと近くなった距離で見つめる瞳からは少しずつ年上のいろが消え始めていて、それを隠すように閉じられたまぶたを合図にキスを落とす。そして、徐々に深く求めているうちに子どものようにくったりとし始めたさんを「あとはオレに任せてください」とばかりに腕の中に包み込むと、そのまま大人にしかできないことを始めたのだった。