あなたを感じていたい
夜の体育館が好きだ。
練習していた部員たちが1人、また1人と帰って行き、最後に残るのはいつも決まったメンバーだ。
リョータ、彩ちゃん、桜木くん、流川くん。赤木先輩や木暮先輩も姿を見せるものの、現役の頃のように遅くまで残ることはほぼ無い。初めの内は寂しそうに見えた三井先輩も、少しずつそれに慣れたようだった。
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「じゃない。三井先輩と付き合い始めたってほんとだったんだ」
初めて全体練習後の自主練見学に訪れた日、彩ちゃんは驚いた顔で声を上げた。
わたしがリョータを好きだったことは、勿論知らない。なので、三井先輩とこうなるに至った経緯を説明するのが難しく、曖昧に微笑んで言葉を濁す。
「うん。色々あってそうなったの」
「意外な組み合わせねー。ってば目に見えて三井先輩に素っ気なかったし、てっきり苦手なのかと思ってた」
「苦手だったよ。少し前まではね」
「……まあ、色々あるわよね」
それ以上詮索して来ない辺りが彩ちゃんらしい。
わたしの肩をぽんぽんと叩くと「ごゆっくり」と言って鮮やかな笑顔を見せた。
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そんな会話をしたのは数日前。
あの日と同じように四隅にあるリングをそれぞれが使い、あちこちからボールの音が響く。
床に響くドリブルの音。空気を裂くパスの音。そして、ネットをくぐるシュートの音。
リングに少しも掠らず入った時のシュパッという軽快な音は、何度でも聴きたくなるし、いつまででも聴いていられる。三井先輩が優れたシューターだということは知っていたものの、初めてちゃんと見た時にはあまりに綺麗なフォームに見惚れてしまった。ボールをリリースする柔らかな手首も、その後のフォロースルーも美しく、こんな姿を知らずにいた自分がいかにこれまで勿体無かったのかを思い知らされた。
「そろそろ飽きてんじゃねーのか」
壁際で体育座りしたわたしの足元を目がけてボールが転がって来る。
それを拾って立ち上がると、転がした主にパスで返した。
「全然。先輩面白いくらい入るんだもん」
「見直したか」
「少しだけね」
憎まれ口を叩くと、軽く頭を小突かれる。その顔は何故か楽しそうで、つられてわたしも笑みが零れた。
「今度試合も観に来いよ」
「うん。絶対行く」
「珍しく素直じゃねーか」
「わたしはいつだって素直です」
「そーいやそーだった。普通あんなあからさまに嫌ってる態度出さねーもんな」
先輩の言う通り、少し前まではこの同じ場所で真逆の態度を取っていたのだ。その時は全く悪いとも思っていなかったけれど、今となっては少々ばつが悪い。
「過去のことはもういいんです。早く続き見せて」
ぐいと背中を押してスリーポイントラインへ導く。Tシャツ越しに触れた体温の高さに、わたしの頬にも熱が集った。
「お、どーした。顔が赤いぞ」
にやりとしながらも放たれたボールは、リングに触れることなくネットを抜ける。
続けて打とうとシュートモーションに入った時に「先輩がカッコいいからだよ」と呟くと、次のボールは動揺を露わにリングに当たって、それでもしっかりネットをくぐった。