冬がはじまるよ


「ごめん。お待たせ」
「大丈夫。色々買い物してたから」
 申し訳なさそうに謝る神くんに首を振って、手にした紙の袋を見せる。
「お茶なの。この時期限定のフレーバーティーで毎年楽しみにしてるんだ」
「へえ。今の時期だと何だろ。栗とか?」
「凄い。良く分かったね。その通り」
「柿と迷ったけどね」
 冗談めかして小さな笑みを零すと、余程珍しかったのか興味深そうな様子で続けた。
「飲んでみたいな。どんな味がするのか気になる」
「いいよ。じゃあうちで淹れてあげるね」
「やった」
 再び綻んだ顔は本当に嬉しそうで、年相応の表情がわたしの心を弾ませる。
 大人びた印象一辺倒だった神くんも、最近では度々こんな姿を覗かせる。そんな、付き合いの長さをしみじみと感じ、幸せな気持ちで隣に並んだ。
「どこかでお茶請け買って行こうよ。神くんは甘いのじゃ無い方がいいよね」
「うん。その方が嬉しいな」
「だったらお薦めがあるの」
 言ってわたしは少し遠回りになる道へ進む。海沿いに新しく出来た店は、土産物屋の体をしていたものの、地元の人間も普段使いにする米菓が美味しいと評判だった。
「ついでにちょっと海辺を散歩しようよ。珍しくいいお天気だし」
「いいね。と一緒なのに晴れてる日は貴重だしな」
 悪戯っぽく笑った神くんは、自然とわたしの右手を取る。直に着いた砂浜を手を繋いで歩きながら、暫し他愛の無い話に興じた。
「ほんとはね、今日は最初からここに来たかったんだ。冬の海って大好き」
「その割りに随分薄着なんじゃないの」
 どんなに雲ひとつ無い快晴とは言え、この季節の海風はやはり冷たい。近所だからと身軽な格好で来たわたしは、きっと神くんの目にどうにも寒そうに映ったのだろう。
「大丈夫。そんなでも無いよ」
「ほら、着て」
 多分に強がりを含む答えに有無を言わせず、羽織っていたブレザーを脱いでわたしの肩に掛ける。
「こんなのしか無いけど少しはマシでしょ」
「わたしがこれ借りちゃったら神くんが寒いじゃない」
「オレはこっちで大丈夫」
 言いながら提げていたスポーツバッグを開けると、中から紫色のジャージを取り出す。
 ぶかぶかなブレザーより更に大きく見えるそれは、当然だけれど神くんにはぴったりのサイズで、そんな当たり前のことにわたしはくすぐったい気持ちになった。
「凄くあったかい」
「本当に?それ大して厚手じゃないだろ」
「でも、ほんとにあったかいよ」

 袖口から指先すら出ない、持ち主をはっきりと感じさせるそれは、何よりも温かくわたしを包む。
 神くんと迎える二度目の冬は、今年も幸せな予感で一杯だった。