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「ちょっと甘いものが欲しいときに手軽でいいよね」
 そんなことを言いながら箱の中の小袋に手を伸ばし、もう何本目かわからないスティック状のチョコレート菓子をつまむ。
「深津くんもどう?」
「プリッツのほうが好きだピョン」
「甘くないほうがいいの」
「そうだピョン」
 それでもしっかり手にした一本をサクサクと食べ終えて、次の一本へ指を伸ばす。
「なんだかんだ言いながら食べてるじゃない」
「くれるものは有難くもらうピョン」
 平然とした顔で言うと2本め3本めと消費していき、やがて最後の一本でわたしの指とかち合う。
「もう終わっちゃった」
「最後は自分で食べるといいピョン」
「いいよ。わたしのほうが食べてるから」
 双方譲り合うなかでひとつの案がひらめく。
「じゃあこうしようよ」
 チョコレートのかかっていない持ち手部分を軽く咥えると、いたずらっぽく深津くんを見つめる。最初こそきょとんとした顔を見せた彼は、すぐにわたしの意図を理解しておもむろに反対側へ口をつけた。
 15センチも無いくらいの菓子ゆえに、わたしたちの顔も初めから近い。言い出しておきながら動揺し進むのをためらっていると、反対側から容赦なしに食べ進められる。どんどん近付く唇に思わず目を瞑れば、途端にそれまでの軽快な咀嚼音が止んで「どうしたんだろう」とまぶたを開いた刹那、残りのあと数口が瞬時に消え失せてそのまま上唇ごと軽く食まれた。
「ごちそうさまでしたピョン」
 目を丸くして固まるわたしに、可笑しそうに深津くんの頬が緩む。
「最後の1本をもらった上におまけつきだったピョン」
「……深津くんがそういうことすると思わなかった」
「始めたのは自分だピョン。ノリがいいと言って欲しいピョン」
 似合わない言葉をしれっと口にされ、たまらずに吹き出す。けれど、確かに深津くんがこんな戯れにつきあってくれたのは意外だった。
「てっきり呆れられておしまいだと思ったのに」
「こんなチャンス逃すわけないピョン」
 しれっと言って、再び掠めるように唇が触れる。
「キスしたいと思ってるのは自分だけじゃないピョン」

 ――――ポッキーゲームにかこつけたわたしの狙いは、最初からお見通しだったらしい。
 ばればれだった気恥ずかしさから膨れてそっぽを向けば、そんな子どもじみた反応すら楽しむように名前を呼ばれ、仕方なく振り向いたわたしは今日三度目のキスにまたしても優しく唇を塞がれたのだった。