Congratulations!


「優勝おめでとうございます。今シーズンは激動の一年でしたね」
「そうですね。ようやくここまでこれたかなって感じです」
「プレイタイムも着実に伸びていますよね」
「はい。いい感じにチームにフィットしたんだと思います」
「沢北選手にとってはいろんな意味で特に実りあるシーズンだったんじゃないですか」

 インタビューの内容が、徐々に違うほうへシフトチェンジしていく。日本から訪れたリポーターは、最初からこっちをメインに聞きたかったのだろう。俄然なめらかになる口調がわかりやすくて、呆れるよりも可笑しさに吹き出しそうになった。

「昨シーズンのオフ、ご自身の大きな出来事としてご結婚があったと思うんですが」
「はい。おかげさまで」
「日本で挙式されたと伺いました。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「やはり奥様の存在は大きいですか」
「はい。とても」
「具体的にお聞かせいただけますか」
「これまでも一番身近で大切な存在ではあったんですけど、籍を入れたことで家族になった安心感が大きいですね。自分の人生が自分と彼女ふたりのものだと思うと、それだけでも大きなエネルギーになります」
「プレッシャーにはなりませんか」
「なりませんね。活力でしかないです」
「そう言いきれてしまう沢北選手が頼もしいです。プレーオフも頑張ってください。お疲れのところありがとうございました」

「ありがとうございました」とオレも一礼してインタビューが終わると、今度は次々にカメラが向けられてフォトセッションが始まる。一緒に収まってほしいだとかひとりのカットを撮らせてほしいだとか様々な注文を受けながら、オレはずっとただひとりの姿を探していた。
「あ、いた」
 体格のいい欧米人に混じると、ひときわ華奢で小柄に見える。けれど、オレの目には誰よりも圧倒的な存在感を放って、客席の中から難なく見つけ出すことができた。
 目が合ったさんに「来てください」と大きなジェスチャーで手招きをする。それに対してちいさくうなずくと、客席の階段を下りてきたさんは遠慮がちにコートの隅へ立った。
「なんでそんな端にいるんすか。写真撮るっすよ」
「え」
 しっかりと手を握り、輪の中へ連れ出す。途端に祝福の言葉とともにいくつものフラッシュが浴びせられた。
「おめでとうって言われてますよ」
「うん。Congratulations だけは聞き取れた」
「すごいじゃないすか」
「あとは全然わからないけど」
「それだけわかればじゅうぶんすよ」
 顔を見合わせて笑いながらそんな会話をすれば、さらにオレたちへ向けてたくさんの光が弾ける。
「眩しくないっすか」
「眩しい。でも沢北くんはいつもこのなかにいるんだよね」
「そうっすね。慣れました」
「だよね。堂々としてるもん」
「自分だって同じじゃないすか」
 こういう場に立ってもおどおどするような素振りを見せず、ほどよく緊張を滲ませた姿勢のよい立ち姿のさんに自分の妻ながら感心してしまう。それを伝えれば「沢北くんが隣りにいるから」と背伸びした耳もとに小声でささやかれて、そんな公衆の面前を忘れた親密なやり取りに周囲から甲高い指笛が鳴った。

「エージ見せつけてくれるな」
「お前のそんな顔初めて見たぞ」
「最高のパートナーじゃないか」

 チームメイトの遠慮なく囃し立てる声に、周囲がまた一段と賑わう。
 その歓声と眩い光に包まれながら、この最高の瞬間を何度でも味わうべくオレはここに立ち続けてやると、何よりも強い力となる最愛の伴侶を隣りに胸の内で誓ったのだった。