CAN YOU CELEBRATE?
「疲れたんじゃないすか」
「大丈夫。久々にみんなに会えて嬉しかったし楽しかったから」
「ほんとっすね」
そんなに仰々しい式にするつもりはなかったので内輪メインのパーティー形式にしたものの、なんだかんだでたくさんのひとが集まってくれて、二次会までずっと賑やかだった。
共通の知り合いになる同窓生をメインに、さんが会社勤めをしていた頃親しくしていたひとや、オレのバスケ関係で懇意にしているひとなど、オレもさんも紹介したりされたりで、時間が過ぎるのはあっという間だ。やがておひらきの時間になり、名残惜しみつつひとりひとり言葉を交わしながら見送ると、ようやくホテルに戻りふたりきりになった。
「この前の会見とは全然違いましたよね」
「うん。あんなに緊張したこと今までないもん」
今日の式に先立って、メディアに促されるかたちで囲み会見をした。その際、ひょんなことから彼女も隣りに立つ流れになったのだ。
* *
「式はどちらで」
「日本です。来週帰国したときに挙げます」
「お相手の方も今頃日本で心待ちにしているでしょうね」
「今こっち来てるんで。さっきの試合も観てましたよ」
顔見知りの記者からの質問だったこともあって、何気なくそう答える。すると、隣りにいた海千山千の別の記者が食い気味に目を輝かせた。
「でしたらせっかくですし、並んだ姿を撮らせていただけませんか」
「え」
「お願いします。ファンの方もきっと祝福したいと思うんですよ」
さんを晒しものにはしたくないと、拒絶の言葉が即座に出かける。けれど、どのみちカメラはこの先絶対に彼女を狙うだろう。もしここで紹介しなければ、何としても姿を収めるべくそれが加熱することは目に見えている。だったらオレがきちんと紹介するかたちにして、代わりに今後はそっとしておいてほしいとお願いするほうが、得策なのかもしれない。考えた結果、口をひらいた。
「彼女に確認するんで少し時間もらえますか」
その返事に辺りがざわめく。口にした記者も、まさかオレが承諾するとは思わなかったのだろう。
さんの待つ控室へいったん下がり、これまでの経緯を説明する。初めはかなり戸惑っていたさんも「答えにくいことは全部オレが答えるんで」そう断言したことで多少は安心したのか「うん。わかった」と最終的には落ち着いた顔でうなずいてくれて、たくさんのカメラやフラッシュに対しても怖気づくことなくしゃんとした姿で隣りに立った。その、細くちいさな肩をしっかり抱いて、このひとが自分の生涯の伴侶であること、誰よりも大切な存在であることを、しっかりとオレは世間に向けて発信したのだった。
* *
「いきなりでしたもんね。あのときはすいません」
「ううん。緊張したけどいい経験になったよ」
「ほんとっすか」
「わたしを守ろうとしてくれたのも知ってるしね」
そう言って微笑むさんを引き寄せて、並んでソファに座る。そのまま結んだ視線に唇を重ねると、二、三度繰り返したのち指を絡めて今日を振り返った。
「バスケ部のみんなに会うのも久しぶりだったでしょう」
「深津さんと河田さんは代表の合宿でちょいちょい会ってましたけど、ほかのひとたちは久々っすね」
「だよね。みんな髪伸びてて最初わからなかった」
「いまだに坊主なの河田さんだけっすもんね」
「河田くんはもうあれがトレードマークだよね。それを言うなら沢北くんもだけど」
「なんだかんだこの頭ラクなんすよ。それに似合ってるって昔言われたし」
誰からかなんて言うまでもない。本人もちゃんと覚えていたらしく、懐かしそうに瞳を細めた。
「それもう何年前になるっけ」
「向こう行って間もない頃だったんで、たぶんまだ十代のときっすよ」
「てことは五年近く前だよね。何だかあっという間」
「そうっすね。そんなに経ってる気がしないっす」
付き合い始めたときから数えれば、それ以上になる。ずいぶんな年月をともに過ごしてきたのに、まったく色あせずに新鮮な気持ちを抱けるのはさんだからだろうと、初恋の偉大さを改めて思う。
初めて夢中になった何かがバスケなら、初めて心惹かれたのがさんだ。何においても初めてというのは強烈な印象を残すもので、そして己に深い影響を与えるものなのだと、そのふたつがしっかりとオレに証明していた。
しばし想い出話に花を咲かせていると、時計に目をやったさんが「もうこんな時間」とおもむろに立ち上がる。
「そろそろお風呂入ったほうがいいよね」
「着替えちゃうんすか」
「どうして」
「もっと見てたいっす」
二次会用に着たパーティードレスは、淡いピンクの色もシンプルなシルエットも最高にさんに似合っていて、めったに目にすることのない姿なだけにしっかりと焼きつけておきたい。なので正直に伝えれば、はにかんだような瞬きとともにいたずらっぽい笑みを見せて、まだ座ったままのオレの膝にちょこんと腰を下ろした。
「じゃあ近くでどうぞ」
「……なんでそーいうことするんすか」
「もっと見てたいって言うから」
「あーもう」
どこまで可愛いのかと、もうお手上げとばかりにぐっと腰を抱く。そして隙間なく密着すると、この夜の始まりとなる口づけを、幾度も求めつつ交わしたのだった。